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 12月の花
 ツワブキが艶のある葉のフキ、ツヤフキの転訛だというのは知っていたのだが、ずいぶんと花がちがう ので異種かと思っていた。それにフキの茎の芯は空洞になっているが、ツワブキの方にはない。それが 同じキク科だという。早春の日だまりにいち早く顔を出す蕗の薹は、春の食膳には欠かせないものの一つ で、天ぷらにするとその香りと苦みで酒も食もすすむ。蕗の薹が薹立ちして花をつけても、キク科の花と は思いもしなかった。ただ、どちらも新しい葉を伸ばしてゆくみずみずしい茎は、煮付けるとおいしく 同じ風味である。ツワブキは初冬の花という感じがあるが、沖縄のツワブキは関東より少し遅れて開 花し、花茎は90p、花球は20pにもなるという。陽射しの強さがちがうからであろうか。石垣島ではタイワン ナシの花が咲いていると便りがあった。沖縄の冬は春が同居しているようなのである。(2003.12.1)

横浜のツワブキ

沖縄のツワブキ(花の上にツマグロヒョ
ウモン)(宮城邦昌氏撮影)

 11月の花
 ホトトギスが庭の片隅に今年も咲き始めた。この花の花弁に、鳥の不如帰の胸の斑紋に似た斑点がある のでその名を取ったものと聞くが、薄紫色の地にいくつもの濃い紫の斑点が散らばり、沢山の花をつける ので華奢な茎葉がしなう。万葉の昔から鳥の方のホトトギスはその啼く声の興趣が詠み込まれていて、姿 は見えずとも特別に親しんでいた気配がある。初夏の山近い農村に提携している農家の援農に行ったこと があるが、リンゴ園の農作業の合間に聞く、カッコウやホトトギスののんびりとしたおおらかな声は、農 業という労働の中にある至福を思わせるものであった。タイワンホトトギスというのは沖縄だけではなく大 和にもあるが、園芸店で求めた庭のホトトギスは交雑種であろうか。先月「10月の花」で、サシバの渡り のことを書いたら、沖縄の友人から写真(八重山毎日新聞・本若博次氏撮影)が届いた。2000羽とも3000羽ともいう渡りである。(2003.11.1)

横浜のホトトギス

サシバの渡り(石垣島バンナ岳)

 10月の花
 春の七草が、若菜を食膳に供して春の色と香りを楽しむものとすれば、秋の七草は山近い里の秋の野に 置いてその姿の風情を愛でるものであろうか。一面に露を置いた葉や花に裳裾を濡らしてものの哀れを詠 んだ万葉の風を真似て、信州の山里に遊んだことがある。萩や葛、ススキは周りにあって探すということ はないのだが、撫子や藤袴はすっかり見えなくなってしまった。北八ヶ岳の東山麓、標高1000メートルのとこ ろにある山小屋に行った時のことで、その南斜面に見事に色づいた吾亦紅があり、思わず歩み寄った脇に女郎 花と桔梗が仲良く顔を寄せて咲いていた。標高1000メートルともなると、朝夕の冷え込みで里より一足早 く、8月の半ばには秋が紛れ込む。沖縄の友人によれば、沖縄の秋は短く季節暦で10月中旬から11月。10 月8日頃の寒路の候に、大陸の高気圧から吹き出す季節風が小雨をもたらすことがあり、そのとき九州南 端からサシバの大群が渡るので、その雨をサシバのシーバイ(小便)と呼んで秋を感じるという。(2003.10.1)

オミナエシと桔梗(八千穂村)

横浜のススキ

 9月の花
 彼岸花は秋のお彼岸の頃に毎年二日と違わず開花するので、この花の日の長さを測る正確さにはいつも感 心する。子どものころ田舎にいて、畑の脇にある墓地から畦道までを真っ赤に埋めて咲くこの花に、かすか に異界を感じてたじろいだ思い出がある。お供えの花でもあり、救荒食としても植えられたのだと聞く。球 根には毒があり、すり潰して何回も水に晒して澱粉をとったという。庭の片隅の鉢に、十年くらい前に相模 川の河原に捨てられていた球根を三つほど拾ってきて植えておいたのだが、植え替えもせずそのままにして いたら分球して15本ほど花をつけた。曼珠沙華と憶えていたが、赤い花という意であるのを知ったのは最近 である。よく見ると花弁と花糸が実に繊細で美しい。年を経て、どんな花もわけへだてなく見られるように なったのであろうか。沖縄には赤い彼岸花のほかに、ショウキズイセンという黄色い彼岸花があるという。 (2003.9.1)

横浜のヒガンバナ

沖縄のショウキズイセン(宮城邦昌氏撮影)

 8月の花
 ワタはアオイ科なので、この形の花はタチアオイやフヨウ、トロロアオイ、ムクゲなど身近でもよく見るこ とができる。ただ、この花は薄クリーム色の清楚な花を朝早く咲かせると、夕方には花弁がピンクになっ て閉じ、開花二日目には凋落する。関東では5月のはじめ頃に種を蒔き、本葉が出るとすぐ葉柄の脇に火焔 太鼓を思わせる苞に包まれた蕾がつく。梅雨が明ける頃には開花し、そのあとに桃とよばれる実が大きくなって ゆくのだが、このコットンボールが白い綿を吹くのは秋の声を聞くころである。17、8年前から 鉢植え で育てて楽しんでいるのだが、大きくなった実が割れて純白の綿そのものが吹き出すのは造化の妙を感じさ せて、何度育てても飽きない。写真はアプランド綿だが、日本には和綿があり、白綿のほかに綿の繊維が初 めから茶色の茶綿がある。(2003.8.1)

今年は梅雨明けが遅れ、まだ開花に至っていません。花の写真はしばらくお待ちください。(2003.8.1)
2日に梅雨が明け、6日の朝に開花しました。(2003.8.6)

本葉が出たワタの木(横浜)

ワタの蕾

ワタの花にツマグロヨコバエ

開花二日目のワタの花

 7月の花
 アジサイは梅雨時の曇り空によく似合う。濃い緑の葉の上に浮かぶ花が、雨に濡れると一層映えるからであ ろうか。中学生の頃、アジサイを漢字で紫陽花と書くのを斜陽花と覚えていたことがある。単純な思いちが いだが、間違いだとわかっても捨てがたいニュアンスを今も感じる。アジサイの花の色はその土地の酸性度 によるらしく、中性ならば赤色になり酸性が強ければ青色を呈すという。しかし、一つの株でも、咲き始め は薄緑色を残した白い花びら(本当はガク)の縁がピンクに染まり、徐々に青みを増して、咲ききると赤紫 色に変化してゆくので、ちがう色合いの花玉がいくつも重なり合う様にこの花の風情がある。そのあたりの妙を詠ん で、「あじさいの花は鞠とぞかぞふべき」と覚えているのだが、誰の句であったか忘れてしまった。沖縄の アジサイは梅雨が明けると、あまりの日差しの強さに花びらが日焼けしてしまうという。(2003.7.1)

咲きはじめのアジサイの花(横浜)

沖縄のアジサイ(宮城邦昌氏撮影)

 6月の花
 隣りとの境に木を植えるために30年前に土を入れた。それが、どこかの山の土だったらしくアケビやタラ の木や、そのほかにも名前のわからない木が生えてきた。タラの木は土のなかに太い根茎があったらしいの だが、あとは実生でそのまま放っておいた。そのうちの一本が花をつけて、初めてエゴノキとわかった。咲 き始めるとあっという間に満開になり、それから花を落とすと地面が見えなくなるほど真っ白になる。実は 細長の丸っこい、小豆より少し大きいぐらいの実だがおそろしく殻が堅い。昔はお手玉の中に入れて遊んだ と聞く。沖縄にもタイワンエゴノキがあり、ほとんど同じという。沖縄の植物は南から来たものが多く、タ イワンホトトギスのようにタイワンを冠す名が多い。北から渡ったものは少なく、染井吉野の移植が何度か 行われたが根付かなかったようである。(2003.6.1)

横浜のエゴノキの花



 5月の花
 ツツジとサツキのちがいは何なのか、長いあいだ確かめずにいた。ツツジの方は葉が厚くて毛が生えてい て、サツキの方の葉は小さくて毛が生えていないなどと勝手に思い込んでいたのだが、何のことはない同じ ツツジ属ツツジ科だということがわかり、実際に葉を触ってみたらどちらも同じような感触であった。「知 っているようで知らないこと」の多さは凡俗の身の常だが、ツツジが4月に咲きサツキが5月に咲くのを別 称にしたらしい。早咲きの桜と遅咲きの桜を、ある時点を境に分けて名前をつけたようなものだが、ずいぶ ん前から開花を心待ちにして、やれ何分咲きだ、満開だ、残んの桜、葉桜だと、どうも桜だけは特別なよう である。右側の沖縄ヤンバルのツツジは「山原乙女」か。(2003.5.1)

横浜のオオムラサキツツジ

沖縄のヤンバルツツジ(宮城邦昌氏撮影)

 4月の花
 沖縄の久高島の畑に植えられていたサツマイモが花をつけていた。花はアサガオに似ているが、そのはず で、サツマイモもアサガオも同じヒルガオ科なのだという。ヤマトではジャガイモの花は見ることができる が、サツマイモの花が畑で咲いているのを見ることはない。どうやら昼の長さが短い時期に、秋から春にか けて花をつけるらしい。サツマイモの葉は寒くなると枯れてしまうので、それで花は南の方でしか見られない。 さらに実もつけるが、やはりアサガオの種子にそっくりであるという。右はボルネオ、キナバル山麓で咲いて いたヒルガオの花。(2003.4.1)

久高島のサツマイモの花(宮城邦昌氏撮影)

ボルネオのヒルガオの花

 3月の花
 春は桜。桜というと染井吉野が優勢だけれど、桜もなかなか種類が多い。桜前線といえば、この染井吉野 の開花が北上する波線だが、それに先立って咲く早咲きの桜の代表がヒカンザクラである。緋寒桜と書くが、 彼岸桜と紛らわしい。関東では、花が釣鐘形で下向きに咲くので「提灯桜」の俗称があると聞く。ところが、 ところ変わればとはよく言ったもので、沖縄では花びらがガクのまぎわまで反る。1月には開花するので、 沖縄の春は早い。ただ、花びらは散らず花ごと落ちてしまうのは同じのようである。(2003.3.15)

横浜のヒカンザクラ

沖縄のヒカンザクラ

 木魂ギャラリーの中に、フォトギャラリーを開設しました。「今月の花」では、原則として毎月一つだけ 取りあげるつもりです。読者諸兄の目をいささかなりとも楽しませることができれば幸いです。文と写真 は社主の鈴木和男が担当します。(2003.3.15)

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