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 12月の花
ビワの花が晩秋に咲くのに気がついたのは最近である。梅雨入りのころ橙色に熟してゆくビワの実 を見るのは毎年の楽しみであったが、花の方には気が向いていなかった。今年新しく出た枝葉の根元 に花穂が立ち、白い小さな花がかたまって咲く。脚立に登って見ると存外可憐である。花期は長く咲 き終わって冬を越すと、小さなあおい実がいくつもついている。三十年ほど前、食べたビワが美味だ ったのでそのタネを庭に埋めておいた。その実生の木が大きくなって実をつけ始め、実のなりも琵琶 の形をして大きく、この十年来味も良くなった。しかし、樹の芯を止めなかったので今では大木にな り、手が届かなくなった上の方の実は、ムクドリやヒヨドリなど鳥たちの食べ放題である。(2004.12.1)

ビワの花(横浜)

ビワの花のつぼみ

 11月の花
内山峠から信州側に下る途中、コスモス街道と呼ばれるところがある。道の両側に色とりどりのコ スモスが咲き乱れて風に揺れる様は、突き抜けるような青空に映えて秋の深まりを感じさせる。コス モスは花びらの色の鮮やかさとわずかな風にもそよぐ風姿を愛でられて、どこの庭先にも見られるの は信州だけに限ったことではないのだが、横浜のコスモスより信州のコスモスの花の色が一段と濃く 冴えるのは、やはり野菜の味を深くするといわれる高原の夜の冷え込みと清冽な空気のせいかもしれ ない。学生のとき、「コスモスの花びらの一枚も、宇宙(コスモス)の運行とかかわりなく落ちるこ とはない」と言った数学の教師がいて、そのときはなんと気障なことをいうものかと思ったのだが、 妙に記憶に残っているのはそこに一片の真理があると感じていたからであろうか。先月「10月の花」で アサガオのことを書いたら、南大東島から小型アサガオの写真が届いた。白と青みがかったピンク の小さな花は、葉の形や付き方、花柄の長さがそれぞれちがうようである。(2004.11.1)

信州のコスモス(八千穂村)

南大東島の小型アサガオ(宮城邦昌氏撮影)

 10月の花
アサガオは夏の花と思っていたのだが、彼岸を過ぎた九月下旬になってもあちこちの垣根に勢いよ く咲いている。それを気にし出したのはこの何年かのことで、以前からそうであったものか定かでは ない。朝顔はさまざまな園芸種があるが、もともとヒルガオ科でその種類も多いようである。花のひ らく時にちなんで朝顔、昼顔、夜顔まである。この夜顔を夕顔と言って混同している向きもあるが、 ユウガオはウリ科で白い小さな花を咲かせる。大きな丸い実をつけ、それを剥いたものが干瓢になる のである。アサガオの種をあらたに買うこともなく、毎年自然に出てくるのにまかせていたのだが、 いつのまにか薄青色のものだけになり花も野朝顔のように小さくなった。園芸種も放っておくと先祖 帰りするのであろうか。彼岸の一日信州に遊んだとき、畑の脇の用水路の斜面にハッとするような赤 紫の花が目に飛びこんできた。ヒルガオかと思ったが、帰って調べてみると夏から秋にかけて咲くマ ルバアサガオのようであった。(2004.10.1)

アサガオ(横浜)

マルバアサガオ(信州、長坂)

 9月の花
南大東島の気象台に勤務している友人から、紅と白のスイレンの花の写真が届いた。この30年、街 の中から池や小川が姿を消して、ひさしく水辺の花を見ることがなくなっていた。こどもが小さかっ た時に、庭の隅にままごとのような小さな手掘りの池を掘って水を入れ、お祭りの夜店で掬った金魚 やすこし遠出して釣ってきたクチボソなどを入れていたことがある。そのときは、ヒツジグサやホテ イアオイを咲かせたこともあったのだが、こどもが大きくなるにつれ池は放置されて、いまは枯葉で 埋もれたままである。近くに農家の自家用の水田がわずかに残っていたのが、やはり埋め立てられて 畑になっている、その脇に小さな蓮田があるのを思い出して行ってみたのだが、花期はとうに終わり 大きな蓮の実がついていた。写真のスイレンは、紅いのは熱帯スイレン、白い方はヒツジグサであろ うか。(2004.9.1)

南大東島、大東神社境内の池のスイレン

同、白のスイレン(宮城邦昌氏撮影)

 8月の花
 芙蓉の花の開花は朝早く、淡いピンクの花がいつ開くのかまだ見たことがない。今年もニイニイ蝉 の初鳴きを聞くと、すぐにミンミン蝉、アブラ蝉と鳴き始めて、蝉しぐれの真夏になった。今年の夏 は昨夏とはちがい、梅雨がはやく明けたとおもうと連日35度を越える猛暑がつづいた。この炎天下で 威勢よく咲いて目立つのは、花木では夾竹桃、ムクゲであろうか。芙蓉の花は、タチアオイ、ワタ、 ムクゲなどと同じアオイ科で、樹形はちがうけれど、葉の形、花の姿がよく似ている。花は五弁で真 ん中に立つしべの奥は、たいてい臙脂色になっている。一日花で、夕方にかけてピンクの色を増して 日が落ちる前には蓮の蕾の形に凋むのであるが 、その時には明日咲くつぼみがもう大きくふくらん でいる。沖縄では朝は薄クリームに咲き、夕方にはピンクになるという。(2004.8.1)

横浜の芙蓉の花

ムクゲの花(横浜)

 7月の花
 夏の朝、葉の上に露を置くツユクサの花は、白い十字花のドクダミの花とともに身近な親しい花で ある。少し前までは双方入り交じって庭の端を占拠していたのだが、今は根茎で勢力を拡げるドクダミの天下 になってしまった。庭には青花と白花のツユクサがあり、もっと前はムラサキツユクサもあったのだが日照を必要 としているらしく、木々が茂ると花をつけなくなった。ツユクサの花の色素は水に溶け出すので、子ど ものころに色水をつくってよく遊んだ。青花紙というのは、花の大きな大帽子花というツユクサの色素 を和紙に染みこませたもので、友禅など着物の下絵を描くときに使われるという。青花ツユクサの花は 愛嬌があり、二弁の花びらが耳のように立ち、雄しべと雌しべが目鼻立ちをつくってそのうちの3本が 前方に髭のように伸びているのが、ネズミの顔のように見えるのはわたくしだけであろうか。(2004.7.1)

ツユクサの花(横浜)

シロハナツユクサとドクダミの群生

 6月の花
 梅雨に入るとクチナシの花のあまい匂いが重く漂いはじめる。少年のとき学校の帰り道など、香りに 誘われてよく顔を寄せたのを思い出す。夕闇に浮かぶ白い花に、若い女の面影を重ねる歌が多いのは、 この花の香りと清楚な姿によるからであろうか。沖縄では一足早く五月には梅雨入りし、ツバキ科のイ ジュの花が山に咲き始めやはりあまいよい匂いを漂わせるという。沖縄、国頭村出身の歌手、平ゆきの「伊 集ぬ花」に「五月の雨降るヤンバルの山に、真白に咲く花、伊集ぬ花。雨にうたれても風に吹かれても、 微笑みやさしい花。清楚に咲く花、伊集ぬ花」と歌われていて、乙女の思いをこの花に重ねている。 (2004.6.1)

横浜のクチナシの花

沖縄、ヤンバルのイジュの花
          (宮城邦昌氏撮影)

 5月の花
  柿の若葉が黄緑色の葉を広げてゆくとき、葉の付け根にはすでにつぼみがついている。葉の緑と同じ 色をしているが、大きな萼がよく目立つ。農家の庭には必ずと言っていいほど柿の木があり、大体が渋 柿であったと記憶している。実がまだ青いときに絞った柿渋は、瓶に入れて熟成させると防水、防腐、日 本酒の清澄剤にとその用途は広く、農家にとっては不時の出費のときの現金収入となったという。甘柿 が出現する前は、渋を抜く技術がいくつもあった。裏の柿の木は、渋柿の木に甘柿の枝をさしたものら しく、渋柿と甘柿がまじる。見た目はわからないが、鳥たちはよく知っていて先ず甘柿を食味する。柿 の花は、白いというよりクリームがかった四弁の花で、萼に包まれて控え目に咲く。(2004.5.1)

横浜の柿の花

柿の花のつぼみ

 4月の花
 スモモの白い花は小さく清楚である。花の開花と同時に葉も芽吹き始めるので、桃の花のような華や かな感じはない。しかし、枝いっぱいに花をつけ木全体が真っ白になる。それが、まだ山頂に雪の残る 早春の信州の風景によく似合う。スモモの実は横浜では7月、信州では8月になると濃い紫色に熟し始 める。十分に熟れた実を冷たい流水においておき、作業の合間にかぶりつくと、喉の渇きをうるおして まことに美味である。木に登って実を採るのが年を重ねると年々大変になるが、楽しみでもある。よく 熟したものはそのまま食べ、あとはジャムにする。さらに若い実はそのまま焼酎に漬けてスモモ酒にす るのである。(2004.4.1)

横浜のスモモ

満開のスモモ

 3月の花
 梅の花はゆかしく香る。花が開きメジロが花の蜜をもとめて来るころ、木の下に入るとよい匂いがま わりをつつむ。庭の梅は遅咲きの豊後で、固かった蕾も二月の半ばには丸くふくらみ始める。紅い萼が 桃色の花びらを隠しきれないくらいにふくらむと、木全体がぼうっと赤みがかる。それからちらほら咲 き始め、三分咲き、五分咲きとなるのだが、満開の時よりこのあたりの梅の姿が好きである。梅の実は、 梅干し、梅酒、梅ジュースなどにしているが、何年か前から梅ジャムをつくっている。採り残しておい た実がわずかに紅を刷くころに採って、しばらく置いて実が熟したものを素精糖で煮るだけのことなの だが、梅の実の香りが立って存外好評のようである。白梅が多い沖縄では梅の季節は終わり、山は若葉 の息吹につつまれ、サクラツツジが咲いてすっかり春の領分である。(2004.3.1)

横浜の豊後梅

沖縄のサクラツツジ(宮城邦昌氏撮影)

 2月の花
 節分を過ぎると、風は冷たいが陽射しは春のものに感じられる。季節の先駈けとして香る花といえば、 春は沈丁花であり秋は金木犀であろうか。沈丁花は春一番に咲くだけに、前の年の秋にはすでに花芽が 準備され、一月にはえんじ色の蕾みがふくらむ。散歩のときなど、道の曲がり角でふっと香ってくるの はこの花の匂いである。花の香り、ものの匂いは強く記憶に結びついていて、いつも子どものころの情 景が脳裏に浮かんでくる。たいていは小学生のころ友達と遊んでいる光景であるが、そこに花木があっ てその花の匂いに包まれていたのかもしれない。あと、桃の実がつくころ湿り気を帯びた土の匂いが部 屋に流れ込んできたときなど、しんとした夜に窓をあけて勉強机に向かう自分の姿と、青春の気分まで あざやかによみがえってくることがある。(2004.2.1)

横浜の沈丁花

1月の蕾み

 1月の花
 ツワブキが咲き終わると、冬の庭はにわかに寂しくなる。しかしよく見ると、コムラサキシキブ、ク チナシ、ユズ、マンリョウなどの実が、それぞれ紫、橙、黄、紅色に見事に色づき、山茶花、寒椿、ヤ ブツバキなどツバキ科の花が紅白の彩りを添えている。山茶花、寒椿は花びらが散るが、大方のツバキ は花ごと落ちる。その椿の花の落ち方を嫌う人もいるが、知人に椿の花を好んで描く画家がいて、たい ていは文様を銀で浮かせた漆黒の壺に、短く剪った大輪の椿の花を一輪差す構図なのだが、椿の花の もつ艶めかしさが壺の黒に強調されてエロティックですらある。咲き誇る花の盛りに不意に訪れる無常が、 生死の極限を思わせるからであろうか。沖縄ではヤブツバキがほとんどで、開花はやや遅れて一月の初 め、やんばるにはリンゴツバキもあるという。沖縄の正月の飾り花は、松、竹、菊、バラ、センリョウ、 椿などで特にきまりはないようである。(2004.1.1)

横浜のヤブツバキ

沖縄やんばるのヤブツバキ(宮城邦昌氏撮影)

 木魂ギャラリーの中に、フォトギャラリーを開設しました。「今月の花」では、原則として毎月一つだけ 取りあげるつもりです。読者諸兄の目をいささかなりとも楽しませることができれば幸いです。文と写真 は社主の鈴木和男が担当します。(2003.3.15)



2003年3月〜12月の「今月の花」はこちら

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