フォトギャラリー
12月の花
キク科の植物は多種である。菊人形や懸崖仕立てに使われる大輪、小輪の園芸種の菊から、タン
ポポなど野に咲くものを数えるとまことに多彩である。食用になる種も多い。春菊などはその代表
格であるが、なんとレタスもそうである。レタスがキク科であるのを知ったのは、小社刊『ネコジ
ャラシのポップコーン』の中にレタスの花のスケッチがあったからであるが、アキノノゲシのよう
な小さな黄色の花で、種実にはタンポポのように綿毛がつくとあった。菊は花期が長く寒さにも強
いので、霜の降りる初冬まで咲きつづける。写真は信州八千穂村にある山小屋に行ったときのもの
で、どの農家の庭先にもなん種類もの菊が咲き誇っていた。山小屋の草屋根の上にも人知れず咲い
ていたが、野紺菊であろうか。(2005.12.1)
八千穂村の菊(現佐久穂町)
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草屋根の上の菊
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11月の花
ムラサキシキブという灌木を知人の庭で見たのは、30年も昔のことである。訪ねた時にはあいに
く花も実もつけていなかったが、知人が嬉しそうに名を告げたことが印象に残っている。ムラサキ
シキブが山野に自生するもので、庭に実生で出てくるものはコムラサキであるのを知ったのはずい
ぶんあとである。紫の実をつけるのを紫式部といい、白い実をつける方は白式部というのだが、こ
のゆかしい名の名付け親はいつ頃の人なのであろうか。庭にはマンリョウもあり、センリョウとは反対
に赤い実を下向きに沢山つける。マンリョウにも白い実をつけるものがあるが、特に別名はないよ
うである。コムラサキもマンリョウも花は小さく地味で目立たないが、鮮やかな色の実で花の少な
くなった晩秋の庭を飾ってくれる。(2005.11.1)
コムラサキの花(横浜)
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コムラサキの実(横浜)
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10月の花
季節の花を「今月の花」と題して、今と昔を縦軸に横浜と沖縄を水平軸にその時々に咲く花の顔を
追ってきた。この間二年半余の歳月が流れたのであるが、ひと月ひと月いち年いち年を過ごすのに
若いときと時間の流れる感じがちがうように思われる。若いときには時間のベクトルは無限に開かれており、ど
のベクトルに乗ろうともその結果を引き受ける覚悟があったように思うのであるが、それがなくな
ると季節の移り変わりに素直にしたがうようになるのかもしれない。飛び抜けて美しい花を追うこ
ともなく、ただいま出会った花を美しく見るのが今の心境のようなのである。左はオニマンマと
呼んでいた大毛蓼、右はアカマンマと呼んでいた犬蓼。どちらも身近にある花である。(2005.10.1)
オオケタデ(横浜)
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イヌタデ(横浜)
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9月の花
オシロイバナは、白、黄、赤、ピンクのほかに、咲き分け、絞りと園芸種のように多彩である。
花期が6月から10月までと長く、咲き終わると丸い黒い実を際限なくつける。根が塊茎になる多年
草なので放っておくとあっという間に庭を占拠されてしまう。黒い実の中には白いデンプンがつま
っていて恰好のママゴトの材料であった。子どものころ、お祭りの時に稚児の鼻に一筋白く白粉を
引くのをまねて、この黒い実をつぶして中の白い粉を集め、友だちと鼻の頭に塗り合った記憶があ
る。夏の夕方に咲いて朝にはしぼむので夕化粧という別名があると聞くが、秋になると一日中咲い
ているようである。(2005.9.1)
オシロイバナ(横浜)
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オシロイバナ(横浜)
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8月の花
ヤブカンゾウの花が咲くと盛夏の入り口である。朱に近い黄色の八重の花は、梅雨明けの陽射し
に一段と映える。ユリ科で毎年同じところに咲く。春先に伸び始めたばかりのやわらかい葉を根の
白いところから抜いて、さっと茹でて酢味噌で食べたことがあるが、甘草の名の通り甘味があった。
友人の画家の個展に行ったとき、ヤブカンゾウの花の甘酢漬けを一瓶いただいた。鮮やかな花の色
が残り、冷やしてから食卓にのせると爽やかな食味であった。それをつくった画家の細君は『お母
さんのちゃぶ台』という本を上梓し、季節の菜をみずから摘んで惣菜にする名手である。二方の母
御から家庭料理を受け継いだのだという。右の方は、花が一重のように見えるのでノカンゾウであ
ろうか。(2005.8.1)
ヤブカンゾウの花(横浜)
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ノカンゾウの花(横浜)
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7月の花
月桃の花を初めて間近に見た。生きているうちに会える花というのも、人との出会いに重なる。
人生もしかり、会える人との一期一会に気がつくのはいつであろうか。そこに生きている人、そこ
に咲いている花との出会いは、馬齢を重ねてみると、それはそのまま自分の幸せというものである
ことに気づく。沖縄に友人を持って、初めて南大東島に足を運んだ。一面のサトウキビ畑がひろが
り、その縁を飾るようにゲットウが植えられていた。ゲットウの葉はお餅や料理をのせるのに利
用され、丈夫な茎はサトウキビを束ねるのに使われたという。左はゲットウの花。右は、南大東島
地方気象台の官舎の生け垣に植栽されていたサンダンカの花。(2005.7.1)
ゲットウの花
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サンダンカの花
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6月の花
花よりも実の方が知られていて花には目がいかないものがあるが、実のなる木にはそれが多い。
ドングリなどはその代表で実が落ちて人の目をひくが、花木とちがい花も小さく地味な上に葉陰に
隠れるように咲くので、いつ花が咲いたものかわからないのである。木ではないが、ナガイモやヤ
マイモにも花が咲くのを知ったのは最近である。食卓にのぼるのは、トロロ汁にする根芋かご飯に
炊き込むムカゴである。ムカゴは花が咲き終わると葉の根元にいくつもついて、初秋には大きくな
ってこぼれ落ちやすくなる。どこから来たものか、庭にはナガイモとヤマイモがフェンスやベラン
ダにまでからみつき、ムカゴを採るために放っておいて初めて花を見たのである。ナガイモの花は
ハッカのような爽やかな匂いがするとあったが、実際には子どものころ縁日で買ってかじったニッ
キ(肉桂)の匂いに近い気がする。(2005.6.2)
ナガイモの花(横浜)
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ヤマイモの花(横浜)
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5月の花
隣の畑地との境に自生の木イチゴと前に植えたバラの木があったが、バラは日照を必要としてい
るので樹勢の強い木イチゴの大きな葉が茂ると圧倒されてしまった。木イチゴの花びらは貴婦人の
純白のブラウスの布地のような優美さがある。この木イチゴの実は沢山つくが、豪奢な花の割に薄
黄色の実は薄甘いだけでジャムにはなりそうにもない。スグリのように濃い赤紫の実が房状につく
種類もあるというから、ジャムになるのはそちらかもしれない。庭には地におろしてほったらかし
にしたイチゴが点々として花を咲かせ実もつけるが、実が赤くなるのが梅雨時で、気がついたとき
には中がすっかり空洞になっていて、ダンゴムシが食したあとなのである。知人が置いていった脇
のスミレはニオイスミレであろうか。(2005.4.28)
木イチゴの花(横浜)
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野イチゴとスミレ
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4月の花
花の色は、同じ色でも微妙に差異があり千差万別であるが、大きく分けると白、黄、赤、青が基本
であろうか。もちろん、クリーム、オレンジ、ピンク、紫や茶色など特別な色調の花もあるが、白を
別にすれば大まかには色の三原色に符号している。同じ花でも大抵はいくつかのヴァージョンを持っ
ていて、梅、椿など多くの木花は白と赤、タンポポ、ヘビイチゴなどの草花は白と黄であるが、アサ
ガオやパンジーなどの園芸植物の花は色見本帖を見るように多彩である。裏庭の八重山吹の花はやや
赤みの入った濃い黄色で、たしかに大判小判の黄金色を想起させる。山吹にもシロヤマブキがあった
と思っていたが、花はヤマブキに似ているが四弁で、葉の形も明らかにちがう別種であった。南大東
島では、すでにビンロウ、車輪梅、アヤメなどの花が咲き、月桃の蕾もふくらんで来たと友人から便
りがあった。(2005.4.1)
横浜の八重山吹
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南大東島のビンロウの花 (宮城邦昌氏撮影)
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3月の花
桜桃の苗木を大分前に買って庭の片隅に植えた。それが大きくなって花をつけ始め、実をつけるよ
うになってからもう十年にはなる。小粒で酸味が勝ったものであるが沢山の実がつく。スモモの木と
梅の木が側にあるので、たがいに実なりが良くなるのだという。しかし、このサクランボが紅く熟す
のを見たことがない。実がまだ渋い時には鳥たちは目もくれないが、あおい実が黄色くなり、わずか
に紅みがさす五月の中頃になると、ムクドリやヒヨドリがやってきて、近くの電線の上に並んで観察
しているのである。ムクドリは一粒づつくわえては電線の上まで戻る可愛さがあるが、ヒヨドリは器
用にも果肉だけ吸い取るので種だけが柄先に残る。手を出されたら最後、その日のうちにほとんど食
べられてしまうのである。(2005.3.1)
桜桃(横浜)
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サクランボ(横浜)
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2月の花
立春を過ぎると、地の上の緑がにわかにやわらかい葉を萌え立たすように感じられる。陽射しもや
や高くなり日溜まりのあたたかさも増すと、いち早く咲いて目立つのがオオイヌノフグリである。冬
の間にすでに少し葉は出ているのであるが、待ちかねたように沢山の葉茎を地面に伸ばし、その先に
小さいが明るい青に黄の点じた花をつける。畑の隅の日溜まりなどは、青いサファイアをばらまいた
ように美しい。花の名は誰が名付けたものか、少々変なのだが、咲き終わって種実を見てみると、二つ
くっついた形がたしかに犬のふぐり(睾丸)に似ている。タチイヌノフグリの方は葉茎が立ち、花は
小さくてほとんど目立たないが、種実の形は同じようである。(2005.2.1)
オオイヌノフグリ(横浜)
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タチイヌノフグリ(横浜)
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1月の花
ユズの実が黄色になり、ワビスケの花が咲きはじめると木枯らし一番が吹く。冬の景色を彩るのは
ヤブツバキ、山茶花、寒椿などツバキ科の花であるが、ワビスケはツバキ科の変わり種で、茶花とし
て好む人が多い。花は五弁であるが小振りなうえに、花びらが大仰に開かない慎ましさが茶の湯の精
神に通ずるからであろうか。同じころに咲くサザンカ、カンツバキが色、形ともはなやかで、咲き終
わると花びらが散るのに対し、ワビスケは大方のツバキと同様花ごと静かに落ちる。花期は長く、半日
かげのなかでひっそりと咲きつづける。(2005.1.1)
ワビスケ(横浜)
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サザンカ(横浜)
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